税務関係
1 節税の基本的な考え方と種類
「節税」とは、決められた法律(税法)の範囲内で合法的に税金を少なくする方法を選ぶことと考えられています。これで間違いではないのですが、重要な観点が抜けています。同じ節税対策をしても、税務調査で認められる場合と否認されてしまう場合があります。その違いは何でしょう?
それは、「経済合理性」があるかどうかということです。
経済合理性とは、取引上の必要性があるということです。
たとえ、税法に違反していなくても、たんに税金を削減するためだけの行為は、租税回避行為としてみなされますので、ご留意ください。
その節税を行う場合に以下の基本的なスタンスがあります。簡単で基本的なことなのですが、実行されていない方も少なからずいらっしゃるようですので、今一度、ご確認ください。
1、 経費として計上できるものはすべてモレなく計上すること
例えば、書籍代。本業に関するもの以外にも、自己啓発本など「売上に貢献するための書籍」であれば経費になります。また、精算等が面倒ということで取引先等との飲食代を自分のポケットマネーから出していませんか?
それに、資産計上したものの中に経費で落とせるものが含まれていませんか?
2、 有利な選択・届出をきちんと行うこと
例えば、「青色申告承認申請」、「青色専従者給与の届け」や状況に応じて「減価償却方法選定の届け」、「簡易課税選択届け」などがあります。
3、 政策で認められている税制の優遇制度を上手に活用すること
例えば、中小企業庁公認の金融商品「小規模企業共済」というものがあります。
また、中小企業限定で、法人税率の引き下げや欠損金の繰戻還付制度などがあります。
また、節税方法に大まかに4種類があります。
税金が減る | 税金を先延ばしにする | |
お金を使わない | I | II |
お金を使う | III | IV |
この中で、最優先すべき節税は、お分かりだと思いますが、Ⅰの「お金を使わず、税金が減る」節税です。Ⅰの節税をきちんと行っても、利益が残っている場合にⅡ~Ⅳの節税策を検討することになります。
なお、Ⅲ及びⅣのお金を使う節税を行う場合には、今後の見通し等を考えて行う必要があります。今期、儲けているからと言ってむやみに支出をすると税金は減るかもしれませんが、残るお金も減ってしまいますので、よく考えてから実行する必要があります。
2 未払いの費用の計上
今期中に発生した費用であるものの、その支払いが翌期になるものについては、今期の費用として計上できます。
決算において、仕入の買掛金はきちんと計上していても経費等の未払計上はあまり厳密に行われていない場合が多いようです。
具体的には、以下のようなものがあります。
(1) 締後の従業員給与の未払計上
通常、従業員の給与計算上、締日を設定しています。例えば、その締日が20日の場合、翌日の21日~末日までの分の給与は翌月の1日~20日分までの分を含めて翌月に支払われますが、末日が決算日の場合、この21日~末日までの10日分を未払計上できます。
(2) 社会保険料の未払計上
社会保険料は当月分を翌月末までに納付する後払いになっていますので、1ヶ月分(決算月末日が土日祝日で振替されなかった場合は2ヶ月分)を未払計上できます。
また、決算賞与などを支払った会社は、その分の社会保険料も未払計上できますので、お忘れなく。 ただし、費用となるのは会社負担分だけですので、ご注意ください。
(3) 固定資産税の未払計上
固定資産税など賦課課税方式による税金が費用となる事業年度は、原則、賦課決定(納税通知)のあった事業年度とされています。
ただし、納期の開始日の事業年度又は実際に納付した事業年度において費用処理した場合には、その処理をした事業年度となります。
したがって、納付書が来ているものの、支払期限が未到来の金額は未払金として費用に計上できます。
(4)労働保険料の未払計上
労働保険は年度更新の手続を6月1日から7月10日までの間に行い、7月10日までに納付しますが、一定の金額以上の場合、7月、10月、1月の3分割で納付ができます。
しかし、労働保険料は申告書提出時に、保険料の全額を費用処理することができます。
3 役員報酬の税務
役員報酬については、税務上、様々な制約があり無条件に損金で落とせるわけではありません。役員報酬を税務上の損金(費用)とするためには、いくつかの留意点があります。
(1) 定期同額給与
毎月の役員給与の支給額を損金に算入できる要件は、事業年度を通じて、同額を支給することです(いわゆる「定期同額給与」)。
ただし、役位報酬の改定は役員の選任機関である定時株主総会の開催と同時期になるとの考えから、期首から3ヶ月以内の増・減額改定は認められます。これにより、法人税の計算上、不利益を受けないようにするためには、役員給与の改定を、通常は年1回、期首から3ヶ月以内に行わなければなりません。
また、これ以外にも経営状況が悪化した場合や役員の職制上の地位の変更等があった場合に役員報酬を改定したケースにおいても認められます。ただ、経営状況が悪化した場合とは、たんなる財務状況の悪化だけではなく、株主・銀行・取引先等の第三者である利害関係者との関係上、減額せざるを得ない事情が生じている状況であることなど、かなり限定的に捉えられていますので注意が必要です。
(2) 事前確定届出給与
従来は、役員に対する臨時的な給与は、損金不算入という取扱いでしたが、税制改正により、事前に税務署長に届け出た金額を、届出どおりの時期に支給した場合は、その役員給与の金額を損金算入できるという制度ができました。この制度の具体的な要件は、次のとおりです。
1、 株主総会等で所定の時期に確定額を支払う旨の定めを決議すること
2、 「事前確定届出給与に関する届出書」を提出期限までに税務署に提出すること
3、 届出どおりに現実に支給をすること
なお、「事前確定届出給与に関する届出書」の提出期限は以下のようになっております。
(ⅰ)通常の場合
株主総会等により、役員の職務の定めを決議した日から1ヶ月を経過する日と期首から4ヶ月を経過する日の早い日
(ⅱ)新設法人の場合
その設立の日以降2ヶ月を経過する日
税務署へ届け出た支給額と実際支給額が異なる場合には、全額が損金不算入となりますので、注意が必要です。
ただし、次の事由により事前に届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合には、所定の期日までに変更届を提出することにより損金に算入することができます。
(ⅰ)「臨時改定事由」による場合
役員の職制上の地位の変更、職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情が生じた日から1ヶ月を経過する日
(ⅱ)「業績悪化改定事由」による場合
経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由により、役員給与の減額について株主総会等の変更決議をした日から1ヶ月を経過する日
ただし、定期同額給与の項目でも述べたように業績悪化事由は限定的に捉えられていますので、ご注意ください。
4 交際費等の取扱い
交際費は、税金を計算するときに全額は損金(経費)にはなりません。
資本金が1億円以下の法人については支出した交際費の金額の一定額が、資本金が1億円を超える法人については全額が経費として認められません。
しかし、取引先との飲食代で「1人あたり5,000円以下」のものについては、 一定の要件を満たせば経費として認められます。ただし、社外の人との飲食費に限ります。いわゆる社内交際費については適用されませんので、注意が必要です。
(社外の者が加わった飲食であれば、それが子会社・関連会社等の役員や社員でもかまいません)
一定の要件とは、以下の事項を記載した書類を保存することです。
1、 飲食等のあった年月日(いつ)
2、 飲食店の名称及び所在地(どこで)
3、 飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者の氏名または名称と関係(誰と)
4、 支出した飲食等の金額(いくら)
5、 飲食等に参加した人数
※保存書類への記載にあたっては、原則としてすべての参加者について記載する必要がありますが、その一部が不明な場合や多数参加したような場合には「○○会社、××部、△△△部長他10名、卸売先」といった記載方法でも差し支えありません。
また、飲食店の持ち帰りに要する「お土産代」は飲食費等に含まれます。この場合は、飲食代とお土産代とを合算して5,000円基準を判定することになります。
なお、1人あたり5,000円を超えてしまう場合には、その料金の全額が経費として認められないことになりますので、ご留意ください。
5 欠損金の繰越し、繰戻還付
欠損金とは"税務上の赤字"のことです。この欠損金が発生したときの税務上の活用方法には次の2種類があります。
(1) 欠損金の繰越控除
欠損金を7年間にわたって繰り越すことが可能で、その間に所得(税務上の黒字)が発生した場合、欠損金と相殺できるというものです。2期続けて欠損金を出したような場合には、古い方から順に適用されます。
ただし、この制度を利用するには次の要件を満たす必要があります。
1、 青色申告書を提出した事業年度の欠損金であること
2、 欠損事業年度後、繰越控除をする事業年度まで継続して確定申告を提出していること
(2) 欠損金の繰戻還付
欠損金の繰戻還付制度は、長期間適用が停止されておりましたが、昨今の不況の影響もあり、平成21年度の税制改正により、中小企業者限定で復活しました。
前期に所得がでていて税金を支払っており当期欠損金が生じた場合に、当期の欠損金分を限度として、前期に支払った税金が還付されるという制度です。
では、どちらを選択したらよいのでしょうか?
資金繰り重視なら当然「繰戻還付」です。すぐに税金が戻ってくるのですから、利用しない手はありません。「繰越控除」の場合は。メリットを受けるのは1年以上先になってしまいます。
ただ、繰戻還付は繰越控除に比べて要件が厳しく、次の要件を満たすことが必要となります。
1、 中小企業者等(資本金又は出資金の額が1億円以下の普通法人等)であること(個人事業者は含みません)
2、 前期(税金を支払った年度)も当期(欠損年度)も連続して青色申告をしていること
3、 当期(欠損年度)の確定申告書を青色申告により期限内に申告していること
4、 確定申告書と同時に欠損金の繰戻還付請求書を提出していること
なお、欠損金の繰戻還付の適用は法人税のみで、地方税には適用はありません。
6 少額減価償却資産の特例
取得した資産のうち、使用可能年数が1年未満または取得価額が10万円未満のもの(本来の少額減価償却資産)は、業務の用に供した事業年度に経費処理することが認められています。
取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産については、その取得価額の合計額の3分の1に相当する金額をその業務の用に供した事業年度以降3年間で均等に経費処理することができます(いわゆる、一括償却資産)。
以上が原則ですが、取得価額10万円以上30万円未満の減価償却資産(上記の適用を受けるものを除く)につきましては、次のような特例があります(措置法上の少額減価償却資産)。
中小企業者が、取得価額30万円未満の減価償却資産を取得して業務の用に供した場合には、その事業年度において300万円を限度として即時に全額償却(経費)処理することができるというものです。期末にまとめて購入しても、その事業年度内に業務の用に供していれば全額経費処理が可能となります。
ただし、当該制度を適用するためには以下の要件が必要となります。
1、 青色申告の中小企業者等(資本金又は出資金の額が1億円以下の普通法人等)であること
2、 確定申告書に「別表十六(七)少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例に関する明細書」を添付すること
3、 租税特別措置法上の特別償却、税額控除、圧縮記帳との重複適用ではないこと
なお、この30万円の判定に関して、次の注意点があります。
(ⅰ)消費税込みで経理処理している会社は消費税込みで30万円を判定
(ⅱ)消費税抜きで経理処理している会社は消費税抜きで30万円を判定
また、固定資産税の取扱いについても留意が必要となります。10万円以上20万円未満の資産は、一括償却資産として扱えば償却資産税は課されませんが、措置法上の少額減価償却資産とすると償却資産税が課されます。処理方法を選択する場合、償却資産税も含めて考える必要があります。
7 エンジェル税制
エンジェル税制とは、ベンチャー企業(特定中小会社)への投資を促進するためにベンチャー企業へ投資を行った個人投資家に対して税制上の優遇措置を行う制度です。
ベンチャー企業に対して、個人投資家が投資を行った場合、投資時点と売却時点のいずれの時点でも税制上の優遇措置を受けることができます。
(1)投資時点における優遇措置
次の2つの優遇措置のうちいずれかを選択できます。
1、 寄付金控除の特例
(ベンチャー企業への投資額-2,000円)をその年の所得金額から控除できますが、所得金額の40%を限度として、最高1,000万円までしかできません。
この寄付金控除の特例は、平成20年4月1日以降、創業3年未満の一定の要件を満たすベンチャー企業への投資に対して認められます。
2、 株式譲渡所得の計算の特例
創業10年未満の一定の要件を満たすベンチャー企業への投資全額を、その年の他の株式譲渡益から控除でき、控除対象となる投資額の上限はありません。
(2)売却時点における優遇措置
ベンチャー企業の株式売却により生じた損失を、その年の他の株式譲渡益と通算(相殺)できるだけでなく、その年に通算(相殺)しきれなかった損失については、翌年以降3年にわたって、順次株式譲渡益と通算(相殺)ができます。
ただし、上記の「投資時点における優遇措置」を受けた場合には、その控除対象金額を取得価額から差し引いて売却損失を計算します。つまり、前倒しで「投資時点における優遇措置」を受けた分、損失が減ることになります。
※譲渡益が生じる場合、当該譲渡益を1/2に圧縮する課税の特例は、平成20年5月1日以降の投資については、廃止されております。
なお、エンジェル税制を利用するためには、まず、ベンチャー企業が経済産業省へエンジェル税制対象企業であること、投資が行われたこと等の確認申請を行います。申請を受けた経済産業省は、確認後、ベンチャー企業へ「確認書」を交付します。この確認書をベンチャー企業は投資家へ提出し、投資家が確認書を確定申告の際に税務署へ提出して手続きが完了します。
このエンジェル税制を、投資される中小企業社側に立ってみてみると以下のメリットがあります
1、 投資家のリスクが減ることになるので投資を受けやすくなること
2、 金融機関からの資金調達が困難な成長段階のベンチャー企業が対象となること
3、 事前確認制度によって、自社がエンジェル税制の対象であることを確認できるので投資家に説明がつき、投資を募りやすいこと
4、 投資家にも事前審査があるので、安心して出資を受けられること
このようにエンジェル税制をベンチャー企業側からみると、新たな資金調達の方法として利用できるものと思われます。
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